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クリスマス。サンタはりんりんと鳴る鈴の音を響かせて空を行くという。 ジングルベルとやらを聞いた覚えが、わたしにはない。当然だ。鈴をつけた動物がそりを引く豪勢な様子など、見たこともないのだから。一度滑れば地面がのぞくような薄い雪の上で、ダンボールの切れ端でもって“そり遊び”をしていた者が、どうしてジングルベルなど、聞けようか。 サンタクロースという御仁は、西洋版の福袋の配達人であるようだ。大型玩具店を渉猟しているらしい。煙突がないと、難儀であると聞き及ぶ。良い子のみに贈り物を配るというあたり、蓋し賢人である。当然ながら、私のところにお出ましにはならぬ。 クリスマスという日はけったいな日である。いつもは知らない大人と話をするなどまかりならぬと目を吊り上げている者が、ほーらサンタさんですよお?とにこにこ笑いながら、髭もじゃの奇妙な風体の人物を引き合わせてくる。あれは立派に知らない大人と思うが、どこが相違しているのか?相違しておらぬならば、普段目を吊り上げて繰り出している小言はなんなのだ。大体夜に、空中を走るそりに乗ってくるはずの人物が、なぜ今ごろこんなところを徒歩にてうろうろと歩き回っているのだ?しかもその顔は自前ではなかろう。いくらなんでも本物にはもっと風格というものが備わっている筈だろう。どうしたところでニセモノとしか思えぬが。 しかし、子供はこれを喜ばねばならぬと決まっているものらしい。あれはサンタとは思えぬ。などと口走ろうものなら、大人たちの今までのニコニコ顔はとたんに険しくなり、彼らは不愉快そうな非難の目を向けてくる。さような失態はせぬよう、心掛けねばならぬ。はしゃいで見せることまでは出来ないとしても、少なくとも、礼くらいは述べなければ。わたしはあいまいな笑顔で、配られる菓子を受取った。まあ、菓子は菓子で、それなりに嬉しい。 クリスマスという日は、わたしにとっては、とにかく鬼門だ。自らの可愛げの無さが実に見事に露呈してしまって、居たたまれなくなる。 そんな子供でも、夜空にリンリンと微かに響くジングルベルが聴こえはせぬかと思ったものだ。トナカイが滑るように夜空を横切る情景を想像するのは楽しかった。さぞかし美しいものだろうと、夜空を見上げた。 窓を開けるな!寒い!という抗議の声に、外に出る。白い息を吐きながら黒い空を眺めた。 家の中からは、テレビの特番に笑い転げる声が聞こえる。 その灯りを、温かいと思ったことはなかった。 贅沢と、理解はしていても。 寒さに目が回る程見上げても、ジングルベルは聞こえてこない。忘れられた子供は、サンタクロースも見つけてくれない。 キン。と鼻の奥が痛くなるのは、寒さの為だ。目がじわりと熱くなり、その温もりは頬を冷たく伝って、手の平に落ちた。サンタはここに来なくてもいい。姿だけなら、こっちで見つける。 湿った空から、雪が落ちてくる。 サンタクロースは、雪雲の上に橇を滑らせているのかもしれない。 ‥‥降ってくる雪は、温かかった。 ─FIN─ 作者ホームページ:RIWA'S WORLD ⇔パレードMAPに戻る
by sleepdog_ms
| 2004-11-27 23:22
| クリスマス・パレード全投稿作品
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